森研究室 東京工業大学 情報理工学院 数理・計算科学系

量子力学について(執筆中)

And I’m not happy with all the analyses that go with just the classical theory, because nature isn’t classical, dammit, and if you want to make a simulation of nature, you’d better make it quantum mechanical, and golly it’s a wonderful problem because it doesn’t look so easy. — Richard P. Feynman 1982.

はじめに

量子力学と聞いて何を思い受かべるだろうか? 最近(2017年現在)量子コンピュータに関するニュースを聞く機会が増えた。 そのため、非専門家向けの量子力学の説明を見たことがあるかもしれない。 多くの場合、「0と1を同時に表現した重ね合わせ状態」なるものを使って説明しているだろう。 しかしそれは、正しいのだが、量子力学を理解するための最初の一歩としては適切ではない。 それでは腰を据えて勉強しようと物理学者の書いた量子力学の本を読むと、解析力学から始まり ハミルトニアンやラグランジアンという「意味」が不明瞭な数学的概念と最初から付き合うことになる。 現代的な量子情報の本を読むと、天下り的に線形代数を用いた量子力学の説明から始まる。 数学として割り切れば分かり易いのだが、やはりその「意味」はよく分からない。 本節では量子力学が古典力学とどのように違うのかを簡潔に説明する。 また、次節の「一般確率論から量子力学」では数理的なバックグラウンド(線形代数と確率論)がある人を対象に、天下り的な議論を最小限にして量子力学を導入する。

状態と観測

「状態」と「観測」は量子力学を議論するために必要な概念である。

ベルの思考実験

次のような実験を考えよう。アリスとボブの2人がプレイヤーであり、ある条件を満たせば2人は勝つというゲームである。 まずレフェリーは2つのビット \(x\) と \(y\) を一様独立な確率で選び、\(x\) をアリスに \(y\) をボブに送る。 その後アリスとボブはそれぞれ \(a\) と \(b\) をレフェリーに送る。このとき、\(a\oplus b=x\wedge y\) を満たせば 2人は勝ちというルールである。 ここでアリスとボブは通信はできないが、事前に状態を共有しておくことができるとする。 このゲームの最大勝率はいくつであろうか? 共有する状態が古典状態であるとする。 \(x\) から決まる \(a\) の値を \(a_x\)、\(y\) から決まる \(b\) の値を \(b_y\) と書くことにする。 すると勝利条件を各 \(x\) と \(y\) について書き下すと

\[\begin{align*} a_0 \oplus b_0 &= 0,& a_0 \oplus b_1 &= 0\\ a_1 \oplus b_0 &= 0,& a_1 \oplus b_1 &= 1 \end{align*}\]

となる。 レフェリーは4つの式から1つを1/4の確率で選択し、それが満たされているかチェックすることになる。 この4つの式を足すと \(0=1\) となるので、4つの式すべてを満たすように \((a_0, a_1, b_0, b_1)\) を決めることはできない。 一方で \(a_0 = a_1 = b_0 = b_1 = 0\) とすると3つの式が満たされるので、最大の勝率は \(3/4=0.75\) となる。 アリスとボブが入力 \((x,y)\) に依存しない乱数を共有することを許しても、この勝率は改善されない。 このゲームの最大勝率が 3/4 以下であるという不等式のことをベルの不等式(もしくはCHSH不等式)と呼ぶ。

しかし、アリスとボブが量子状態を共有していると、ベルの不等式は破れ、最大勝率は \((2+\sqrt{2})/4 \approx 0.854\) となる。 このことから、量子力学が古典力学と本質的に違うことが分かる。このベルの不等式を破る性質のことを「非局所性 (non-locality)」と呼ぶ。

No-signaling 条件

情報因果律

マクロ局所性

一般確率論から量子力学(執筆中)

数理的なバックグラウンド(線形代数と確率論)がある人を対象に、天下り的な議論を最小限にして量子力学を導入する。